スティーブ・マックイーンのポルシェ917を探して

映画『栄光のル・マン』に登場する、ガルフオイルのロゴをあしらったポルシェ917KHは史上最も伝説的なレーシングカーの一台だが、作品に登場するどのシャーシがスティーブ・マックイーンのポルシェ917のものだろうか?

1960年代、スティーブ・マックイーンは銀幕の二枚目スターとしての地位を築き上げ、観客の心をつかみ、映画館をそのクールなイメージで満たした。

やがてマックイーンはソーラー・プロダクションズという制作会社を設立し、究極のレース映画(当時の仮題は『24 Hours of Le Mans(ル・マン24時間)』)の制作に着手する。1970年のル・マン24時間レースの撮影許可を取り付けた映画製作スタッフはレース場にカメラを設置した。ソーラー・プロダクションズはポルシェ908もレースにエントリーさせ、マシンに取り付けたカメラでレース中の映像を撮影。ル・マン24時間レースの映像とレース後の映像を組み合わせた同作品は、実際のレース映像とマックイーン演じる主人公の目線であるスタントドライバーの演出映像で構成されている。演じる主人公の目線であるスタントドライバーの演出映像で構成されている。

1971年の映画『栄光のル・マン』は、スティーブ・マックイーン演じるマイケル・ディレイニーのガルフオイル917がジークフリート・ラウヒ演じるエリック・スターラーのフェラーリ512に勝利するまでの軌跡を描いているが、このプロットでもフェラーリは撮影に車両を貸し出すことを承知しなかった。マックイーン本人はもちろんのこと、この映画の主役はなんといってもガルフオイルのカラーリングをまとった3台のポルシェ917KHだろう。ほとんどのトラックでのシーンが本物のレース映像と制作用の映像から構成されているため、複数台のポルシェ917が作品に登場する。

このため、どのポルシェ917が「スティーブ・マックイーンのポルシェ917」か見分けがつきにくいが、幸運にも、ポルシェ917と同映画のファンがすでに作品に登場するそれぞれのシャーシの履歴を入念にリサーチしているため、その答えを見つけやすくなっている。

トム・ユング作の劇場用ポスター
出典:IMDB.com


1970年のル・マン24時間レースには、計8台のポルシェ917がエントリーした。その8台の内、917-017/004、917-016、917-026のシャーシにガルフオイルのブルーとオレンジのカラーリングが施されていた。20号車、917-017/004のハンドルを握ったのは、ジョー・シフェール/ブライアン・レッドマン組。エンジンのふかしすぎにより午前1:30にクランクケースが壊れ、リタイアせざるを得なくなった。21号車、917-016のハンドルを握ったのは、ペドロ・ロドリゲス/レオ・キヌーネン組。こちらも22周目にエンジンが故障し、リタイア。22号車、917-026のハンドルを握ったのは、デビッド・ホッブス/マイク・ヘイルウッド組。激しい雨の中、49周目にスピンアウトした。

クレーンで吊り上げられトラックから撤去される917-026。写真提供:ライナー・シュレゲルミルヒ
出典:FlatSixes.com


これら3台のマシンの姿をトラックに設置されたソーラー・プロダクションズのカメラがとらえ、映画にも登場している。実際、トラックから引き上げられている22号車を映した上の写真には、カメラを搭載したポルシェ908が通過していく姿もとらえられている!

ガルフオイルのカラーリングの3台のマシンはいずれもレースを完走できなかったため、ソーラー・プロダクションズが撮影した映像はそれほど多くなく、レース後の撮影には使用されていない。代わりに、917-013、917-022、917-024-2の3台がソーラー・プロダクションズに貸し出され、それぞれ対応するカラーに塗り替えられた。

JWオートモーティヴ・エンジニアリングからソーラー・プロダクションズへ貸し出された917-013は、21号車のカラーリングで、カーレーサー、デビッド・パイパーがハンドルを握った。しかし撮影中、マシンはクラッシュし大破。1つのタイヤがパンクし、マシンはクラッシュしてトラックの両側に設置されたバリアに突っ込んで真っ二つに割れ、溝にはまって止まった。このクラッシュによりパイパーは足に大怪我を負い、ブレーキ液や破片が傷口に入り込んだために炎症を起こし、ひざから下を切断するはめになった。映画のエンドロールのクレジットには、「彼の犠牲」への謝辞が記されている。


ガルフオイルのカラーリングをまとった3台のポルシェ917KH『栄光のル・マン』のセットにて。写真提供:不明
出典:FlatSixes.com


Three Porsche 917KH in Gulf Oil livery, on the set of Le Mans. Picture credit: Unknown
Source: FlatSixes.com


デビッド・パイパーとスティーブ・マックイーン、
『栄光のル・マン』(1971年)の撮影現場にて。写真提供:不明
出典:IMDB.com


クラッシュした917-013のシャーシの片側部分残骸
写真提供:マイケル・カイザー
出典:FlatSixes.com


22号車のカラーリングの917-024-2は、カーレーサーのジョー・シフェールから借りたもので、シフェールは、撮影用に他にも何台かのマシンを貸し出した。作中、21号車のハンドルを握ったマイケル・ディレイニーの援護を受けた22号車は勝利に向かって走る。撮影後の1971年7月7日、シフェールはそのマシンで自身の誕生日会場に向かった。悲しむべきことに、1971年10月24日にシフェールは早すぎる不遇の死を遂げ、その葬列を率いたのも、この917-024-2だった。その後、個人の車収集家に売却され、その後約30年間、表舞台から姿を消す。そして2001年、フランスの田舎の車庫で発見された917-024-2は再び日の目を見た。全面的な改修が施された後、カリフォルニアでオークションにかけられ、2017年8月18日、記録破りの価格、1,408万ドルで競り落とされた。

オークションのために改修されたジョー・シフェールの917KH(917-024-2)
写真提供:マチュー・ウルトー / Gooding & Co.
出典:LA Times


スティーブ・マックイーンの制作会社はシャーシ917-022をポルシェから購入した。元々、マックイーンは1970年のル・マン24時間レースに26号車としてこのマシンでエントリーする予定だったが、危険すぎるとして、制作へ投資していた投資家がエントリーを差し止めた。917-022はスティーブ・マックイーン演じるマイケル・ディレイニーがハンドルを握ってレースに出場させた20号車のカラーリングをまとった。作中、20号車はクラッシュしリタイヤするが、実際にはこのシーンの撮影には917に似たローラT-70のシャーシが使用された。

917-022は映画の20号車としての役目を終えると、デビッド・パイパーの事故の後、21号車のカラーリングに塗り直されたという。スティーブ・マックイーン演じるマイケル・ディレイニーは、映画の終盤に再び21号車のハンドルを握る。自分が所有するマシンの運転を続けたのだ。つまり、シャーシ917-022こそ、「スティーブ・マックイーンの917」ということになる。

映画のセットで20号車(シャーシ917-022)のシートに座るスティーブ・マックイーン
写真提供:不明
出典:FlatSixes.com


1971年6月、推定予算760万ドルにさらに200万ドルのプロモーション費用がつぎ込まれた『栄光のル・マン』がロードショー公開された。同作品の舞台裏では、マックイーンは結婚生活、制作会社、友人など、多くのことを犠牲にした。同作品は160万ドル近くオーバーした予算に見合った収益を上げることができず、マックイーンもプレミアに顔を出さなかった。

Despite this, Le Mans became a cult film over time.マックイーンは、従来のハリウッドのドル箱映画ではなくドキュメンタリー映画を制作しようとしていた。ドライバーや人間ドラマではなく、レースとマシンにスポットライトを当てた『栄光のル・マン』は、史上最も刺激的でリアルな、まさに究極のレース映画といえるだろう。

1970年のル・マン24時間レースを走る20号車、ポルシェ917KH
写真提供:不明


『栄光のル・マン』に登場するポルシェ917について詳しくは、Flatsixes.comのジャンニ・カビーリオ(Gianni Cabiglio)氏の記事を参照のこと:
Le Mans 24 vs. Le Mans the Movie: The Real Porsche 917

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